〈裁決例〉強皮症+右大腿骨頚部内側骨折


【裁決例から】平成22年(厚)第131号

主に請求事由に関する争いです。初めて2級による請求ですから、一般の方より、専門家向けの裁決例になります。サロン社会保険労務士内で当裁決について、議論しましたので備忘録として載せておきたいと思います。

(概要)

既存障害(前発)を強皮症、基準障害(後発)を右大腿骨頚部内側骨折として、初めて2級による請求(厚年法第47条の3)を主位的請求、事後重症請求(厚年法第47条の2)を予備的請求(裁定請求書は、「3.」「初めて2級による請求」に〇)とする裁定請求を行う。

保険者は、 「初 めて2級による請求」として扱い、前発傷病である強皮症による障害の状態が、 障害状態を認定すべき日において単独で 国年令別表に定める2級以上の程度に該当すると認められるとして、請求人に請求事由の変更の検討を勧めたが、請求 人がこれに応じる意向を示さなかったため、やむを得ず、本件裁定請求は、あくまでも「初めて2級による請求」のみを請求事由とする裁定請求として扱うほかはないとして、却下処分を行った。

請求人は、原処分を不服とし、審査請求をした。 請求人は、当該審査請求をした日から 60日以内に審査官の決定がなかったと して、 再審査請求をした。

【争点】

主位的請求である「初めて2級による請 求」及び予備的請求である本件事後重症 請求のいずれをも却下したのは不当か。

【裁決】

既存障害(前発)強皮症の事後重症請求の却下処分を取り消す。

本件審理期日における再審査請求代理人 の陳述によれば、請求人は、再審査請求時においては、本件裁定請求について、 「初めて2級による請求」とともに、予備的に、本件事後重症請求をも行っているものとして扱うことを求めていることが明らかであり、また、一般的に、障害給付の裁定を求める請求者本人の気持としては、本件におけるように、明示的には 「初めて2級による請求」として裁定を 求めている場合であっても、仮にそれが 認められないとしても、裁定請求書に添付して提出した資料等によって、他の請求事由による請求として構成することが 可能であり、そのような構成をとった場 合には障害給付の受給に繋がる余地があ るのであれば、そのような構成をとるこ とを拒否する旨が書面によって一義的に 明確に示されているような特段の事情が ある場合はともかく、予備的に、他の請求事由による請求をも黙示的に行ってい るものとみるのが、ことの実態に沿うものと考えられるところである。このよう な点を総合勘案し、当審査会は、本件に ついては、本件裁定請求から原処分に至るまでの間には、請求人に請求事由の変更の検討を勧めたが、請求 人がこれに応じる意向を示さなかったという経緯・事情があるにしても、請求人本人の利益のために、本件再審査請求を棄却あるいは 却下し、請求人に、改めて、紛れのない 形で本件事後重症請求をすることを求め る趣旨に繋がる対応は行わず、事後重症請求が予備的請求として黙示的に含まれており、原処分には、この予備的請求をも却下する趣旨が黙示的に含まれているものとして扱う こととする。 なお、本件についてこのように扱う ことは、請求事由として「初めて2級による請求」のみが明示された障害給付の 裁定請求に係る事案について、常に必ず同様に扱うのを相当とする趣旨でないこ とはいうまでもない。また、再審査請求の段階で本件におけるような扱いを行うことは、原処分時においては必ずしも予期されていないことであり、障害給付の裁定請求に係る実務の対応において、常 にかかる扱いがあり得ることを想定して ことに当たらなければならないとするのは、実務担当者に過大な負担を求めたり、 場合によっては事案ごとの対応の公平 性・客観性を害することにも繋がりかね ないことになるが、そのような事態を避けるためには、障害給付の裁定請求につ いては、本件のような「初めて2級によ る請求」についてはもとより、他の請求事由による請求の場合においても、例えば、これは実務上励行されつつあるように見受けられるが、裁定請求書に請求事由として障害認定日による請求と記載さ れている場合に、予備的に事後重症によ る請求をも申し立てる旨を記載した書面を徴しているように、その裁定請求が裁 定請求書に記載された請求事由のみによ るものとしているのか、それとも他の請 求事由をも申し立てているのか等を、他 の請求事由をも申し立てていることのみ ならず、他の請求事由は申し立てない旨 (例えば、「「初めて2級による請求」以 外の請求事由は一切申し立てない」、「本 件裁定請求は、障害認定日による請求と しての裁定を求めるものであり、事後重 症による請求としての裁定は求めない」 など)をも、裁定請求書提出の際に、裁 定請求者自身の作成に係る書面によって 一義的明確な形で明らかにしておけばよ いのである。

本件再審査請求については、原処分は、本件裁定請求における 主位的請求である「初めて2級による請 求」及び予備的請求である本件事後重症 請求のいずれをも却下したものであると し、それを不当としているものとして扱 うこととするので、本件の問題点は、第 1には、主位的請求を却下した理由の当否であり、換言すれば、本件裁定請求日 における請求人の傷病Aによる障害の状 態が2級の程度に該当すると認められるかど うかである。第2には、事後重症請 求を却下したことの当否であり、この関係では、障害の状態が3級以上の程度に該 当するものであるとすれば、その他の保険料納付要件等の支給要件が満たされていることについては当事者間に争いがな く、本件記録によっても明らかであるか ら、専ら、本件障害の状態の程度いかん を問題とすべきことになるところ、保険者も、本件障害の状態については、それが2級の程 度に該当するものであることを認めてい ることにもかんがみると、それは事実上 第1の問題点と全く同じものとして考えればよいことになる。したがって、本件 で検討しなければならないことは、本件障害の状態が2級の程度に該当するか否 かの1点である。

社労士簡野のコメント】

既存障害(前発)の初診日が国民年金加入中である場合は、保険者からの請求事由の変更の検討に応じないという選択は大いにあり得ると考えますが、本件は、前発も厚生年金加入中です。前発初診日と後発初診日との期間が長く、請求事由の変更の検討に応じ難いほど、年金額が異なったのでしょうか?年金額に相当な開きがない限り、不毛な争いになってしまいます。